2014年6月16日月曜日

富岡製糸場と絹産業遺産群-富岡製糸場に関して

富岡製糸場の用水は、
十分に確保できていたのでは?

と、ある方から質問をいただきました。

といいますのは、先日のブログ記事

http://geogunma.blogspot.jp/2014/06/blog-post_11.html
富岡製糸場と絹産業遺産群-富岡製糸場 間違った情報があるのでは・・・・・?

で、

水利は不便であるが七日市から引いている用水の三分の一も使用すればことたりること

 と、富岡製糸場誌に書かれているということを述べたところ、

 1/3の水量で間に合うということであり、十分に用水が確保できていたのではないか、

   ということでした。

たしかに建設前の見込みでは、そのとおりであったのでしょうが、実際には大量の用水が必要になり、その安定的な確保は実に困難なことでした。

たとえば、夕立や大雨などによって、川の水が濁ってしまいますと、その濁り水を製糸に使用することができず、さりとて場内の沈澱池でのろ過や鉄製水槽に貯めた水量で、濁り水がおさまるまで操業することは、まことにたいへんなものでありました。
また、台風などの大水で、取水口が損壊して、取水できなくなったといったこともしばしば発生しました。

工場用水が必要な工場にとって、安定的に用水が確保できないというのは、たいへんに困ったことになります。

こういった用水事情に関しては、
にも参考文献として紹介していただいていますが、
甘楽多野用水誌に詳しく述べられています。
これ(↑)は、旧富岡製糸場建造物群調査報告書のなかの一節ですが、甘楽多野用水誌を編纂する際、浅岡堰の取水口をさがしたのですが、ここにあったという伝承はあるものの遺構を確認することができませんでした。
この浅岡堰から山下堰に移行するのですが、これ(↓)が現在の山下堰になります。
撮影:2003.12.5
現在の山下堰の近くには、これ以前の取水口が残されています(↓)が、
撮影:2003.12.5
これだけの堰がつくられたのは、ごく最近のことになります。

浅岡堰をはじめ、富岡製糸場がつくられた明治の初めのころの堰については、戦後間もなくに実施された高田川護岸工事の記録などを見ましても、はっきりしたことがわかっていませんが、当時の土木技術水準から想像して、川原に石を積んで、そこへ本流の水を引き込む程度のものであったと考えられます。

いまでも大水がありますと、用水管理は堰を破損させないように最大限の注意をしています。

これ(↓)は、高田川に設置されている君川堰の用水取り入れ口です。
撮影:2014.6.1
ふだんは、このようになっていますが、大水になったときは、堰を倒して、川の水をあふれさせることなく、下流に流すように対応します。
撮影:2014.6.10
堰を倒して、濁流を下流に流しているようす(↑)です。

とくに高田川(丹生川合流後も含めて)は、集水区域が狭いうえ、岩塊の集合体そのもののような妙義山がひとつの水源にもなっているため、保水力に乏しく、大雨などのときには、一気に出水してしまうという〝宿命〟もあって、富岡製糸場ができる前からも七日市村の人々は、水の確保、用水の管理に大きな苦労を強いられてきたというのが実態であったといえるでしょう。

製糸工場をはじめ、どの工場においても必要な用水とは、つねに水量・水質が安定していることです。
これが不安定であることは、たとえ平時には間に合っていたとしても、間に合わないときがあるという不安を抱えての操業となり、たいへん気苦労の多い毎日をおくることになってしまいます。

また、用水の確保量ですが、前掲の富岡製糸場での当所見込みと異なって、実際には大量の用水が必要になり、その確保のために苦労されていたという、これが実状であったといいってよいでしょう。


富岡製糸場は、器械製糸の初めてだったの?

つぎの質問は、NHKのテレビ番組をご覧になった方からいただきました。
放送:2014.5.21
この映像(↓)をご覧になって、疑問に感じられたということでした。
放送:2014.5.21
この質問については、つぎの画像(↓)をご覧いただくことで、回答になっているのではないかと思います。
前橋市の敷島公園にある蚕糸記念館の展示です。
ここに「日本で最初の機械製糸場跡」というパネル展示があります。
この製糸場では、富岡製糸場より2年半も前に、機械を導入しての製糸を行っていました。

したがって、NHKで放送された内容には、正しくない表現があったということになる(※)のではないでしょうか。
  ※ 器械製糸の定義等によって、NHKの表現が正しいのかどうか・・・そこまでは、私にはいまのところわかりません。
    あくまでも、 前橋に「日本で最初の機械製糸場」があったということであり、放送に間違いがあったと述べているわけ
   ではありません。 

以上のとおりです。

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