2015年2月19日木曜日

富岡製糸場と絹産業遺産群-建物の維持管理、その難しさ

ぐんま街・人・建築大賞
 富岡製糸場、維持管理で 片倉工業(東京)が受賞

2015.1.28付けの上毛新聞で、ぐんま街・人・建築顕彰会が、第3回の大賞に片倉工業を選んだと報じられました。
この記事では、
 操業停止後も富岡市に寄贈するまで維持管理を継続してきたこと
   をあげて、
 「売らない、貸さない、壊さない」の理念は、近代建築史上極めて貴重とされる製糸場の継承と世界遺産登録につながる功績をもたらしたこと
   が受賞理由であると述べられています。

以前、このブログ(↓)

http://geogunma.blogspot.jp/2014/12/198735.html

富岡製糸場と絹産業遺産群-1987.3.5を覚えていますか?

       ひっそりと終止符


で、片倉工業の富岡工場が操業を停止したとき、その当時の片倉工業と富岡市行政との〝距離〟について、想像をめぐらしてみました。
いまになって考えてみますと、片倉工業の方針である

  「売らない、貸さない、壊さない」

は、

   富岡市の観光資源等に活用させない

という意味で、

  片倉工業が積極的に文化財としての価値に着目して、
  建物等をきちんと残そうとしていたわけではなかった

のではないか・・・と、そんな感じを受けるのです。

もちろん片倉工業が売却しようとしたところで、製糸業が斜陽産業になっていく時代、この工場を買い受けて、製糸業を始めようという会社が登場することもないでしょうし、ほかの業種での工場にしようとしても古い木造の建物であり、とても使い物にならず、だれも買い受けようとしないでしょう。

貸すといっても、買い受け希望がないと想像されるように、借り受けたいという希望もないと想像できます。

では、建物を壊して、更地にしようとすれば、文化財保護法の規制を受けていない段階であっても、

 貴重な建物を壊すとは、とんでもない会社だ!

といった批判を片倉工業が受けることにもなりかねず、仮に撤去することになったとして、建物の解体、廃棄物処理費用などは、多額なものになるでしょうし、片倉工業はどうにもならない状況になっていたのではないか・・・と、私は想像しています。
倒壊する前の乾燥場:2013.8.4撮影
片倉工業にとって、たいへん幸運だったのは、所有していた時代に大きな地震や自然災害にあわず、建物が倒壊するような被害を受けなかったことです。
とくに明治期に建てられた建物は、しっかりした設計と施工によって、外見的には、いまもしっかりしているように見えます。
すくなくても大きく傾いていたり、壁がはげ落ちていたり、屋根の瓦がずれている・・・といった状況(よく見れば、西繭倉庫なども相当に傷んでいますが)ではないようですが、耐震性といった安全性などの基準では、まったくもって基準の外、といった状態であるとのことで、これから改修工事も計画されているといった報道もあります。
大雪で倒壊した乾燥場:2014.7.13撮影
明治期の建物に比して、その後の建物のなかには、あまりよい設計と施工でなかったのか、昨年2月の大雪で倒壊してしまった建物-乾燥場-もありました。
大雪で倒壊した乾燥場の部材は、あまりよい部材が使用されているとはいえず、ひとことでいえば農家の物置ぐらいのもの(それも安普請の小屋程度)のように見受けられるものでした。

片倉工業が所有している時代に、昨年のような大雪が降らなかったことは、同社にとって、たいへん幸運なことであったといえるでしょう。
寄宿舎(浅間寮・妙義寮):2015.1.13撮影
寄宿舎の内部は、いまのところ公開されていませんが、「旧富岡製糸場建造物群調査報告書(平成18年2月・富岡市教育委員会発行)には、天井と床が抜け落ちている写真が掲載されています。
こんな状態では、とても見学コースにできないと思いますが、社宅なども床が抜け落ちていたり、とてもひどい状態になっている、これも世界遺産の旧官営富岡製糸場なのです。
ペンキ塗りと片倉工業のうちわ:2014.8.31撮影
片倉工業は、一生懸命に建物を守ってきたのでしょう。
たとえば柱などの塗装にしたところで、文化財を守ろうという考えに基づいたものとは、私には思えないものとなっているのですが、維持管理費用を抑えるためにやむをえないことであったと思うのです。
上の画像の柱:2014.8.31撮影
これからは富岡市民が守っていくことになるのですが、多額の費用負担、ましてや今後は観光客が減ってくるとも予想されるなか、また人口減と高齢化などといった将来予測を考えるとき、これからますます富岡市民の一人ひとりが、この世界遺産のために、たいへんな負担を強いられていくことになると、いま、私は想像しています。

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